改正された国外源泉所得免税制度 (Foreign-Sourced Income Exemption regime) が2023年1月1日から施行されています。この制度は追加の修正を検討しており、2024年1月1日から修正版の施行が予定されています。
国外源泉所得免税制度 (Foreign-Sourced Income Exemption regime、以下 FSIE制度)が改正となり2023年1月1日から改正されたFSIE制度が施行されています。
香港は香港源泉所得に対してのみ課税しますが、この改正によって香港外の源泉所得についても香港で課税されるケースが発生します。
FSIE制度改正の背景
IRDのHPに以下の記載があります。
"With a view to supporting international efforts in combating cross-border tax evasion and preventing double non-taxation, Hong Kong committed to amending its Foreign Source Income Exemption (FSIE) regime for passive income in accordance with the Guidance on FSIE regimes promulgated by the European Union."
"国境を越えた脱税対策と二重非課税防止における国際的な取り組みを支援する観点から、香港は、欧州連合(EU)が公布したFSIE制度に関するガイダンスに従い、受動的所得に対する国外源泉所得控除(FSIE)制度の改正を約束しました。"
端的に言うと、香港はEUのブラックリストに入ることを避けるために、FSIE制度を改正して2023年1月1日から施行しました。
FSIE制度の追加の修正の背景
2022年12月にEUはFSIEに関するガイダンスをアップデートしました。このEUのアップデートは2023年1月1日から施行されている香港のFSIE制度には反映されていません。そのため、FSIE制度改正後の2023年2月14日時点のEUのリストに香港は記載されています。
EUのリストから外れるためにはFSIE制度の修正が必要であり、修正された制度は2024年1月1日から施行予定です。
現行のFSIE制度ついて
2023年1月1日から施行されている現行のFSIE制度の概要を説明します。
香港で事業を行う多国籍企業グループの一員である企業が オフショア (香港外源泉) の受動的所得 (利息、配当、ロイヤルティ等) を香港で受け取った場合、その受動的所得は香港で課税されます。但し、一定の要件を満たしている場合には課税は免除されます。
わかりやすい例だと、香港法人が香港外の法人から配当を受け取っている場合、今までは香港で課税されることはありませんでしたが、2023年1月1日以降は免税の要件を満たさないと課税されることになります。
もう少し詳しく見ていきます。
1)対象となる納税者
Members of MNE groups
多国籍企業グループに含まれる企業、つまり多国籍企業グループの一員ではない企業は対象外です。
2)対象となる所得
香港以外の地域で発生する以下の所得 (特定外国源泉所得と言います)
・利息
・配当
・企業の持分売却益(処分益)
・知的財産 (IP) 所得
(注)課税対象とならないものもあります(例、銀行等の規制対象の金融機関から受領した国外源泉の収益)
3)みなし規定
以下の2つに該当する場合、特定外国源泉所得は香港に源泉があるとみなされ課税されます。
(a) その所得が香港で貿易、事業を営む多国籍企業によって香港で受領される場合。
(b) 受領企業が、経済的実体要件 (利子、配当または処分益の場合) 、ネクサスアプローチ (知的財産所得の場合)、資本参加要件 (配当または処分益の場合) のいずれも満たさない場合。
以下、所得の種類別に見てみます。
<利息を受領した場合>
多国籍企業が香港外を源泉とする利息を香港で受け取った場合であっても経済的実体の要件を満たしていれば非課税です。
経済的実体の要件は以下の2つです。
・香港における特定の経済活動を行うために必要な資格を有する従業員を適切な人数雇用している。
・香港で特定の経済活動を行うために十分な額の営業支出をしている。
但し、IRDは上記について具体的な数値を示していませんので、案件毎に検討されることになります。また、純粋持株会社の経済的実体の要件はこれより軽減されたものとなっています。
<配当または処分益を受領した場合>
多国籍企業が香港外を源泉とする配当、譲渡益を香港で受け取った場合、前述の経済的実体の要件を満たしていれば非課税です。
経済的実体の要件を満たしていない場合であっても資本参加免税の要件を満たしていれば非課税となります。
資本参加免税の要件は以下の2つです。
・多国籍企業が香港居住者である。または香港非居住者の場合は、外国源泉の配当または処分益が帰属する香港の恒久的施設を有している。
・多国籍企業企業が、海外源泉の配当または処分益が発生する直前12ヶ月以上の期間、当該投資先企業の持分の5%以上を継続的に保有している。
但し、資本参加免税の濫用防止のためのルールがありますのでこちらも満す必要があります。
a) スイッチオーバールール
b) 主要目的ルール
c) ハイブリッドミスマッチ防止ルール
a) スイッチオーバールール 香港外で発生した配当や処分益が香港外で15%以上の適用税率で課税されていない場合は、上記の資本参加免税の要件を満たしていたとしても香港での免税を適用しない (スイッチオフする)というルールです。免税が適用されない場合でも税額控除は可能です。 b) 主要目的ルール 前述の資本参加免税の要件を満すことの主な目的、または主な目的の1つが、利得税の税制上の優遇措置を得ることであるとIRDのコミッショナーが判断した場合、資本参加免税は適用されません。 c) ハイブリッドミスマッチ防止ルール 所得が配当の場合、当該配当が被投資会社において損金参入される場合は、香港側では免税はできません。配当を払う側と受け取る側の両方で課税されないという状況を避けるためです。 |
<知的財産収入を受領した場合>
多国籍企業が香港外を源泉とする知的財産収入を香港で受け取った場合、ネクサス要件により課税と非課税となるものに分けられます。
ネクサス要件によると適格知的財産から得られる収入のみが優遇税制の対象となります。適格知的財産とは特許条例に基づいて認められた特許等が該当します。
4)追加の修正に関して
2024年1月1日から修正されたFSIE制度が施行される予定ですが、修正が検討されている事項は以下があります。
・現行のFSIE制度では処分益は株式/持分譲渡に関するものが対象となっていますが、資産の性質が金融か非金融かにかかわらず、処分益は課税の対象となる。例えば不動産の売却益が対象となります。
・資産の取引業者が得た資産に関する処分益を対象から除外する。例えば、不動産開発業者による不動産の売却益は除外されます。
・資産が関連会社間で譲渡された場合、処分益に対する課税は繰り延べられる。
IRDのHPにFSIE制度について詳しい説明があります。
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